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2009/01/21 07:39
オバマ新大統領が就任しましたが、米国についての所感を
まとめた文章を、12月の医師会報に投稿したので、
興味のある方はご覧ください(長いですよ〜〜)
<米国は変わるのか>
米国の大統領選挙が終了し、オバマ新大統領が誕生した。
その演説を聞きに集まった支持者たちのハイテンションな
歓喜の声とは裏腹に、新大統領が直面する米国の現実は重い。
予備選から続くこの長いレース期間において、
とりわけ医療制度改革は大きな争点であった。
公的医療制度の拡充に何度も「NO」と言い続けて来たブッシュ大統領に代わり、
オバマ新大統領は民間保険を前提としたうえで医療関係予算を
拡大することを公約としてきた。
医療を市場原理に委ねた結果、一部の高所得者を除き、
ほとんどの国民がその恩恵から日ごとに遠ざかりつつある米国。
その米国は、今後変わっていくのだろうか。
もう1年前のこととなってしまったが、昨年、米国でもっとも
無保険者率の高いテキサス州(無保険者率24.4%*1)において、
低所得者・無保険者の医療の現場を3ヶ月に渡って体験する機会があった。
テキサス州は保守的な土地柄で、私がボランティアとして研修をしたのは、
ブッシュ大統領の実家もあるヒューストンである。
ヒューストンでは、石油、航空産業と並び、Texas Medical Center(TMC)
という米国でも最大規模の医療機関の集積地に代表されるように、
医療もその主力産業のひとつである。
しかし、超格差社会のヒューストンでは、医療もその格差の例外ではない。
TMCで唯一の公的病院であり、「食堂にはホームレスがウロウロ
しているような所だから、行かない方がいい。」と噂のBen Taub病院。
その救急外来で、医師ではない立場で過ごしたからこそ、見えてきたことがあった。
救急外来には、無保険のため市内の診療所で診察を受けられない
ヒスパニック系の人々やホームレスが朝から次々と訪れる。
その一角にある小児救急の外来で、私が小児科医として働いていた
日本の小児救急の現場では見たことがない光景が、繰り返されていた。
ある10歳の白人の女の子が救急に運ばれて来た。
特に具合が悪い様子ではないが、おとなしくベッドの端に腰掛けている。
主訴は「自殺企図」。
学校の友人が自殺し、自分も後追い自殺を図ろうとして
ナイフを持っていたところを、帰宅した母親に止められた。
彼女はナイフを壁に投げつけたが、そこで押さえられた。
そして救急車で病院へ運ばれた。
彼女は10歳とは言え、日本なら高校生といってもいいくらい
大人びて見える。彼女の母は彼女を産んだ後離婚し、
別の男性と再婚後二人の弟が生まれた。その弟たちや
義理の父とはうまく行っているという。
しかし、そのうちやってきた母と義理の父。二人とも白人だが、
母親は肥満体でTシャツ短パンにサンダルを履き、
父親の方は長い金髪でランニング姿、腕には刺青がある。
失礼だが、あまり品の良い格好とは思えない。
父親は失業中で、母親は働いているが、子どもはもちろん無保険だった。
両親はやってきたものの、当の本人とはあまり話さなかった。
母親はイライラした様子で、父親に文句を言っているようだった。
私が、少女に水が欲しいかと聞くと、少し首を振り、
弱々しく微笑んだきり、言葉はなかった。
彼女はそのまま救急外来で24時間を過ごした。
母親だけは付き添った。彼女が母親にそう頼んだのである。
救急外来に前日やって来た精神科の医師は、1度診察したきり、
姿を現さなかった。病院の食堂にあるマクドナルドだけが
母と子の食事となった。
昼も近づいて来た頃、イライラしていた母がついに外来に
響き渡るような大声で訴えた。
「私たちはもうここに24時間もいるのよ!このあとはどうなってるの?
医者は来るの?私は今日仕事を休んでいるし、駐車場代だって
馬鹿にならないわ。私は仕事を失いたくないの。なんとかして!」
日本語に訳すと臨場感が出ないが、”I don’t want to lose my job!”
という母の叫びが今でも私の耳に残る。
無保険者でもっとも多いのは、仕事のない低所得者ではなく、
それより少し所得の多い働いている世帯なのである。
母親の叫びにようやく医師が1人やって来て診察し、
そのまま帰宅が許可された。
10歳の少女は、やはり言葉もなく、母親と共に外来を出て行った。
驚いたことに、「自殺企図」の小児科患者は彼女だけではなかった。
連日のように、「精神科」対応の子どもたちが次々と救急へやって来た。
その多くは、「自殺企図」であり、基礎疾患として「躁うつ病」と
診断がつけられている子も多かった。
フィリピンから来た移民の外来看護師がつぶやいた。
「あの子たちは、本当は躁うつ病なんかじゃないのよ。」
現在世界中が翻弄されている米国から発信された金融危機と不況。
あるいは終わりの見えなかった中東の戦況。しかし、そのずっと前から
医療・教育・雇用など多分野に渡って米国の社会のひずみは
積み重なってきた。そして、今、目の前で、こうして社会で
一番弱い立場にある人々、特に子どもたちに重くのしかかっている。
米国では、ボランティア精神や寄付は大いに賞賛されるが、
それはこの子どもたちを救うのに必要なケアを提供するには
あまりにも不十分である。単なる一時的な寄付金や教会で配られる
クリスマスプレゼントよりも、社会の仕組みを根本的に変えることだが
必要なのだ。
さて、変革で常に必要なことは、国のあるべき姿を提示できるかどうか
ということだと思う。果たしてオバマ新大統領は、「CHANGE」と
叫んだその先の国家の姿を描ききれているのだろうか。
またいつかヒューストンの地を訪れ、社会で一番助けを必要としている
人々の生の声を聞き、CHANGEの先に現れた米国を確かめてみたいものだ。
*1 U.S.Census Buerau 2007, “Comparison of Uninsured Rates Between
States Using 3-year Averages: 2005 to 2007”
http://www.census.gov/hhes/www/hlthins/hlthin07/statecomp07.xls
*文章中の登場人物のエピソードはプライバシーに配慮して、
実際のものとは改変しています。
*米国での体験についてさらに詳しい文章は、下記をご覧ください。
1)「セーフティーネットとしての医療
〜米国テキサス州ヒューストンにおける約3ヶ月間の研修から〜」
http://www.mskj.or.jp/getsurei/sakano0710.html
2)「政治経済より人間力
〜松下政経塾は何をするところか〜」(上坂冬子著、PHP出版)
より、第7章「女医塾生の海外研修」
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